スタートアップで事業開発やアクセラレーション業務を経験し、「次は一社の成長ではなく、産業全体を支える仕事がしたい」と考えている方に、珍しい選択肢が出てきました。東京都が、民間などでの経験を生かせる「スタートアップ戦略推進担当」を、課長代理級と主任級で公募しています。
ただし、これは一般的な民間企業への転職とは異なる任期付きの正職員採用です。仕事内容の華やかさだけで決めず、応募資格、年収、任期、行政ならではの合意形成まで確認する必要があります。この記事では、スタートアップ支援に5年以上携わった30代後半の事業開発職を想定し、応募判断と選考準備を具体的に整理します。
📄 東京都のスタートアップ戦略推進担当公募で何が起きたのか

エン株式会社は2026年9月7日、東京都スタートアップ戦略推進本部のスタートアップ戦略推進担当を公募すると公式発表しました。募集するのは課長代理級と主任級で、応募受付期間は9月7日から9月28日まで。エン転職、AMBI、ミドルの転職を通じて告知されますが、後述する所定書類の提出まで済ませなければ応募完了になりません。
担当領域は、スタートアップが集まるTokyo Innovation Base(TIB)の運営、SusHi Tech Tokyo 2027の準備、国内外の支援機関や自治体との連携、若者のアントレプレナーシップ育成などです。アントレプレナーシップとは、起業家だけに限らず、新しい価値を生み出そうとする姿勢や行動力のこと。イベント運営だけではなく、政策、広報、事業開発、官民連携を横断する仕事と捉えたほうが実態に近いでしょう。
背景には、東京都の「Global Innovation Strategy 2.0 STARTUP & SCALEUP」があります。都は、東京発ユニコーン数、東京の起業数、都とスタートアップの協働実践数をそれぞれ5年で10倍にする目標を掲げています。今回の公募は、単発のイベント要員を集めるというより、この戦略を実務へ落とし込む人材を民間などから迎える動きです。
💡 今回の求人の核心は「行政未経験者にも門戸があること」ではなく、民間などで積んだスタートアップ関連経験を、都市規模の政策と事業へ翻訳できる人を求めている点です。
| 比較項目 | 主任級 | 課長代理級 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 施策やプロジェクトを担当し、実務の中核として推進 | 課長を補佐し、事業全体を俯瞰しながらチームを牽引 |
| スタートアップ関連経験 | 対象となる経験を合計5年以上 | 対象となる経験を合計10年以上 |
| マネジメント経験 | 必須条件としての記載なし | おおむね3人以上を統括した経験が3年以上 |
| 月給 | 32万4,000円以上 | 38万1,200円以上 |
| 想定年収 | 500万円~700万円 | 700万円~900万円 |
| 任期 | 2026年12月1日~2028年3月31日。制度上、通算5年まで延長可能 | 2026年12月1日~2028年3月31日。制度上、通算5年まで延長可能 |
表の待遇と条件は、公開中の主任級の求人および課長代理級の求人に基づきます。「延長可能」は延長が約束されているという意味ではありません。この違いは、転職後の生活設計を考えるうえで見落とせないポイントです。
💰 東京都の任期付職員は年収だけでなく任期と働き方を確認する
主任級は想定年収500万円~700万円、課長代理級は700万円~900万円です。残業代は別途全額支給とされ、期末・勤勉手当、通勤手当、扶養手当、退職金制度も掲載されています。現在の年収と比べるときは、提示レンジだけでなく、基本給、手当、賞与、残業時間、退職金を含む年間総額で見ましょう。
勤務時間は9時から17時45分で、始業時刻は7時から11時まで選択可能とされています。勤務地は東京都庁とTIBで、転勤はありません。業務の状況に応じてリモートワークも可能ですが、「常時在宅勤務ができる」という記載ではない点には注意が必要です。イベント開催や関係者との対面調整が多い時期は、出勤や現地対応が増える可能性があります。
年間休日は120日以上で、完全週休2日制とされています。一方、SusHi Tech TokyoやTIBのイベントは多くの関係者が参加するため、開催前後の繁忙や休日対応の有無は求人票だけでは分かりません。選考が進んだら、年間の繁忙期、休日出勤時の扱い、出張頻度、リモートワークの実際の利用状況を質問しておくと安心です。
💡 年収レンジが希望に合っていても、最初の任期は約1年4カ月です。「任期中に何を獲得し、その後どの市場へ移るか」まで描けるかが、応募判断の分かれ目になります。
任期付きであることは、単純な弱点とは限りません。官民連携、政策実装、予算や公的手続き、多国間のステークホルダー調整を経験できれば、その後は自治体、政府系機関、大学、スタートアップ支援会社、ベンチャーキャピタル、大企業のオープンイノベーション部門などへ選択肢が広がると考えられます。ただし、これは編集部によるキャリア上の分析であり、次の仕事や任期延長を保証するものではありません。
現在、住宅ローンや子どもの進学などで収入の継続性を重視している方は、延長されなかった場合の生活費と再転職期間も試算しておきましょう。逆に、数年間で行政と民間の双方を理解する「越境経験」を得たい方には、任期の区切りがキャリア目標を明確にするきっかけになるでしょう。
📄 公務員への転職で評価されるスタートアップ経験の見せ方

主任級の応募資格は、民間企業や官公庁などにおけるスタートアップ関連の実務経験が合計5年以上あることです。課長代理級は合計10年以上に加え、おおむね3人以上を統括した経験が3年以上必要です。対象として示されているのは、スタートアップ企業などでの実務、スタートアップ支援推進部門での実務、創業・起業に関する実務の三つ。学歴は不問です。
ここで大切なのは、勤務先の会社名や「スタートアップ業界にいた年数」だけを強調しないことです。東京都の仕事では、スタートアップ、大企業、大学、投資家、自治体、庁内各局、海外機関など、目的や判断基準の異なる相手をつなぐ必要があります。職務経歴書では、自分一人の売上成果に加えて、利害の違う関係者と合意をつくったプロセスを示したいところです。
たとえば、アクセラレーターで採択企業を支援した経験があるなら、「20社を担当した」だけでは情報が足りません。募集テーマの設計、審査基準の策定、メンターや事業会社との調整、実証実験の進行、成果指標の管理まで分解しましょう。東京都側が知りたいのは、その経験をTIBや自治体連携の仕事へ再現できるかどうかです。
事業会社の新規事業担当者も対象になり得ます。スタートアップとの協業、出資後の事業連携、大学発技術の事業化、社内起業制度の運営などに携わってきた方は、応募資格に合う可能性があります。ただし、自分の経験年数が募集要件上どの区分に含まれるかは、公開されている東京都の採用案内を確認し、不明点は募集窓口へ問い合わせるのが安全です。
書類に盛り込みたい経験は、次のように整理できます。
💡 職務経歴書では「何を担当したか」から一歩進めて、「誰と合意し、どんな制約を越え、どの指標をどこまで改善したか」を数字と役割で示しましょう。
スタートアップ支援の経験を棚卸しし、応募書類に使える強みを整理する
📄 スタートアップ支援の仕事でも、行政では成功のつくり方が変わる
民間のスタートアップ支援から行政へ移ると、仕事の目的と意思決定の基準が変わります。民間では売上、投資収益、顧客獲得などが優先されやすい一方、行政では公平性、説明責任、予算の適正な執行、政策目的との整合も欠かせません。スピードだけでなく、なぜその企業や施策を支援するのかを第三者へ説明できる状態にする必要があります。
公開求人でも、この仕事の厳しさとして、多様な関係者との合意形成や行政組織ならではの手続きへの順応が挙げられています。「スタートアップのようにすぐ決められる職場」と思い込むと、入職後にギャップが生じるかもしれません。その一方で、求人にはチャットツールを使った意思決定や、役職ではなく「さん」付けで呼び合う組織風土も紹介されています。どちらか一方だけでなく、挑戦志向と公的手続きが同居する職場だと理解するのがよいでしょう。
主任級には、担当施策を自ら考えて前へ進める実行力が期待されています。課長代理級では、それに加えて複数事業を俯瞰し、メンバーの意見を集約しながら課長を補佐する役割が中心です。プレイヤーとして手を動かし続けたい方は主任級、組織横断の優先順位づけやチーム運営まで担いたい方は課長代理級との親和性が高いと考えられます。ただし、年齢ではなく、応募資格と実際の役割で選ぶべきです。
また、TIB運営、国際イベント、自治体連携、若者育成は、同じ「スタートアップ支援」でも必要なスキルが異なります。自分の専門に近い一領域だけでなく、未経験領域をどう学ぶかも面接で見られる可能性があります。応募前には東京都の戦略資料を読み、自分が特に貢献できる柱と、入職後に補うべき知識を一つずつ言語化しておきましょう。
✅ 9月28日締切までに応募書類と面接準備を進める
選考は、書類選考と個別面接の二段階です。応募には履歴書、職歴調書、エントリーシートが必要で、求人サイト上のエントリーだけでは完了しません。公開求人では、志望動機を200字程度、活用できる知識・経験を600字程度で記載するよう案内されています。短い文字数だからこそ、抽象的な社会貢献への思いだけで埋めないことが重要です。
応募締切は9月28日です。エン転職の求人ページ上部には10月4日までの掲載期間も表示されていますが、応募・選考欄とエンの発表は9月28日を受付期限としています。掲載終了日と応募期限を混同せず、東京都の採用案内で最新情報を確認してください。
志望動機は、「社会に貢献したい」だけでなく、東京都の戦略上の課題、自分の経験、入職後に実現したい成果をつなげます。たとえば、海外展開支援の経験者なら、海外アクセラレーターとの提携実績や現地市場への進出支援を、東京のグローバル連携へどう応用するかまで書くと筋が通ります。
活用できる知識・経験では、一つか二つの代表事例に絞りましょう。「課題」「自分の役割」「関係者」「行動」「成果」「東京都での再現方法」の順で整理すると、600字でも伝わりやすくなります。チームの成果を自分だけの功績に見せず、自分が担った判断と行動を明確にする姿勢も大切です。
- ✓ 主任級と課長代理級の応募資格を年数・職務内容の両面で確認した
- ✓ 任期が2028年3月31日までで、延長は確約ではないと理解した
- ✓ 現在の年収と月給、手当、賞与、残業代を同じ条件で比較した
- ✓ 東京都の戦略2.0を読み、自分が貢献できる施策を一つ選んだ
- ✓ 官民や社内外の合意形成を主導した具体例を用意した
- ✓ 成果を人数、期間、予算、参加率など確認可能な数字で示した
- ✓ 履歴書、職歴調書、エントリーシートの三点をそろえた
- ✓ 求人サイトの操作だけでなく、指定方法で書類提出まで完了する段取りを組んだ
- ✓ リモートワーク、繁忙期、休日対応、任期延長の判断時期について質問を準備した
💡 選考対策では「スタートアップが好き」ではなく、「公的な制約の中で、多様な関係者を巻き込み、政策目標につながる成果を出せる」と示すことが重要です。
📄 東京都の任期付職員へ応募するか迷ったときの判断軸
今回の公募と相性がよいのは、スタートアップ支援の経験をより大きな単位で生かしたい方、行政と民間の橋渡し役を目指す方、短期的な売上だけでは測れない社会的成果に向き合いたい方です。自社サービスの成長に集中するキャリアから、エコシステム全体の成長を支えるキャリアへ移りたい方には、検討価値があります。
一方で、雇用期間の定めがない仕事を最優先する方、一社の意思決定速度でサービス開発を続けたい方、関係者調整や公的手続きを負担に感じる方には、慎重な検討が必要です。仕事の社会的な規模が大きいことと、自分が望む働き方に合うことは別問題だからです。
応募するかどうかは、仕事内容、待遇、任期後の三つに分けて判断しましょう。仕事内容では、自分の経験がTIB、SusHi Tech Tokyo、自治体連携、若者育成のどこに接続するか。待遇では、年収だけでなく勤務場所や繁忙期を含めて生活が成り立つか。任期後では、政策実装や官民連携の経験を次のキャリアへどう持ち運ぶかを考えます。
まだ行政への転職を決め切れない場合でも、今回の求人票を使って経験を棚卸しする価値はあります。自分がスタートアップの「中」で強いのか、複数企業をつなぐ「支援」で強いのか、制度や市場を整える「政策実装」で強いのかが見えやすくなるためです。その整理は、ベンチャーキャピタルや大企業の新規事業部門など、ほかの応募先を選ぶ際にも役立つでしょう。
応募期限までは限りがありますが、任期付きという大きな条件を急いで飲み込む必要はありません。募集要項を確認し、家計とキャリアの両面を試算したうえで、「この任期で何を成し遂げたいか」を自分の言葉にできるなら、書類作成へ進んでみてはいかがでしょうか。
参照元
🔗 出典・参照リンク
- 東京都スタートアップ戦略推進本部「令和8年度 一般任期付職員の募集」(2026年9月7日公開、2026年9月7日21時01分確認)
- エン株式会社「東京都スタートアップ戦略推進本部、スタートアップ戦略推進担当を公募」(2026年9月7日公開、同日21時01分確認)
- エン転職「スタートアップ戦略推進担当(主任)」(2026年9月7日掲載・更新、同日21時01分確認)
- エン転職「スタートアップ戦略推進担当(課長代理)」(2026年9月7日掲載・更新、同日21時01分確認)
- 東京都スタートアップ戦略推進本部「東京都のスタートアップ戦略」(2026年9月7日21時01分確認)
